コラム
映像ディレクター・松本壮史さんインタビュー
あなたとちいさな話がしたいんです 略して…ちい話!
2024.11.29
大事なことって、ちいさなことに詰まっている(気がする)。広告されない ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』編集部がゲストをお招きし、その方が大事にしているちいさな物事について伺っていこう!そして、『ちい告』の肥やしにしていこう!というインタビュー企画です。
今回のゲストはこの方! 松本壮史さん 1988年生まれ。映画・CMなどの映像ディレクター。 |
編集部:第2回のゲストは、映像監督の松本壮史さんをお迎えします。よろしくお願いします!松本さんは、ZINEがお好きなんですよね?文学フリマに参加されているのを、インスタで拝見しました。
松本さん:こないだ、友達と文章を書いて、出店してお客さんに売るみたいなことをやらせてもらいました。直接売るから、いろんな話ができておもしろかったです。
編集部:『青葉家のテーブル』の中でも、ZINEが登場するシーンがありましたよね。
松本さん:そうですね。ZINEは好きです。
編集部: 松本さんは、映画やドラマ作品のお仕事でも、広告のお仕事でも活躍されていますが、どのような違いを感じられていますか?
松本さん:昔はけっこう違うなと思っていたんですけど、最近はあまり違わないと感じています。伝えなきゃいけない情報量の差くらいで、基本は一緒なんじゃないかと。そう思うようになってから、仕事をちゃんと楽しくできるようになった気がします。もちろん違うときもあるんですけど、人がグッとくるところは、どちらの仕事でも同じなんじゃないかと思いながらやっています。
広告の尺と、映画の尺。
編集部: 「違う」と思っていた当初は、どのような部分で悩まれていましたか?
松本さん:広告はやっぱり短いから、「どんな人で」とか、そういう部分まであまり描けなかったり、無駄なおしゃべりができなかったりすることを、尺のせいにしがちだったんですけど。でもそれは、瞬発力があるものをやればいいだけだなと考え直しました。15秒30秒の中で、そういう自分が好きなものを、長尺の作品と同じ考え方でできたらいいなと思っています。
以前CHOCOLATEさんの仕事で、片岡さんとご一緒した『やさしいルイボス』のWEB CMも、30秒の中に物語があるわけではないのですが、前後に何かありそうな雰囲気がありました。尺に入ってないところでも、物語は立ち上げられるんじゃないかなと。30秒の世界ですけど、それ以上の尺も描けるのでは?と感じています。最初は難しいと思っていたんですけど、尺が短い分、描かれてはいないけど、描けているようなものがある気がして、そこが楽しいです。
サントリー GREEN DA・KA・RA やさしいルイボス のWEB MOVIE『チャリを洗う』篇
編集部:尺に関する質問をもう1つ。『サマーフィルムにのって』の制作秘話で、松本さんは映画の尺を90分にすると決めていたと書かれていました。それは、なぜだったのでしょうか?
松本さん:作品のテーマによって、長い尺に適しているものと、短い尺に適しているものがあるんだと思います。『サマーフィルムにのって』のような青春映画は、軽やかさやリズム感が美徳といいますか、その軽やかさに適した尺があると思っていて。好きな映画監督の初期の作品には、青春映画がすごく多いんですけど。それが、だいたい90分台で。だからやっぱり僕の中で青春映画は、90分とか88分とかなんじゃないかなと思ったりしています。
簡単な言葉のほうが、ぐっと来る。
編集部:松本さんの作品の登場人物は、みんな愛すべきキャラクターで魅力的です。人物設定やセリフを書く際、どのようなことに気をつけていらっしゃいますか?
松本さん: セリフは、すごい簡単な言葉を使う人が好きです。名言を言うキャラクターが、あまり好きじゃなくて。その辺の言葉で会話しているほうが、ぐっと来るなと思っているので、なるべく簡単な言葉を使うようにしています。
人物設定については、『サマーフィルムにのって』のときは、物語の中で家庭の話を一切描かなかったんですよ。学校での彼女たちしか描かなかったので、役者の方には「家はこうなんだよ」とか「子どもの頃はこうだったんだよ」とか、見えていない部分の設定を、余計に丁寧に紐解いて渡していました。
編集部:役者の方も本当に素敵な方ばかりですが、どのような形で配役を決められていますか?
松本さん:脚本を作ってから撮影まで2年弱くらい期間があったので、毎日のように役者の方を調べていました。事務所のホームページをくまなくチェックしたりして。その後、オーディションというよりは、面談みたいな形で話を聞かせてもらいました。高校生たちが映画を作る物語だったので、実際にものづくりに興味がある人たちがいいかなと考えていて。伊藤万理華さんも、河合優実さんも、祷キララさんも、みんなそういう方だったんです。河合さんは高校生のときから山口百恵さんに似ていると言われていたらしく、ちょっと寄せて自分主演のダンスコンサートをやったことがあるそうで、その話がすごく面白くて。本当に自分で何かを作ってきた人の、上辺ではない魅力が作品にハマると思いました。
左から、河合優実さん(ビート板役)、祷キララさん(ブルーハワイ役)、伊藤万理華さん(ハダシ役)
仲良くなるって、難しいから…
編集部:松本さんが大事にしている小さい視点や細かいツボってありますか?
松本さん: 小さい視点かどうかわかりませんが、「人と人が親密になる瞬間」「親密になっていく過程」がすごく好きかもしれないです。お互いにちょっと探り合って…そういうの見ると、なんかちょっと涙が出ちゃう。ちい告でも、『友達になれそうフラグ』(第7号)というのがありましたけど、あれ好きですね。人と仲良くなるのって、すごく難しいと思っているので。
こないだ、家の近くの公園でぼーっとしていたときに、たぶん付き合いたての高校生カップルが隣にいたんですけど、全然話が盛り上がっていなくて。途中で、男の子が急に「あのさ、今まで乗ってきた自転車言い合わない?」って切り出したんです。
編集部: すごい切り口ですね(笑)
松本さん: 「大丈夫それ?」とヒヤヒヤしたんですけど、それがめちゃくちゃ盛り上がっていて。「まず3歳のときは、お兄ちゃんの青い自転車で」みたいな感じで、2人が歴代の自転車を言い合っていくんですよ。こういうので、人って距離が近くなるんだと思って。結構、聞き入ってしまいました。
編集部:松本さんのお気に入りの作品を教えていただきたいです!
松本さん:『ノーマル・ピープル』というアイルランドのドラマです。原作がサリー・ルーニーという方の小説で、そのときから面白くて読んでいたんですけど、このドラマが生涯ベスト級に好きですね。思春期に出会った2人が、付き合ったり別れたりを繰り返しながら大人になっていく話なのですが、メンタルヘルスの問題がしっかり描かれていて。2人がお互いにケアし合いながら、恋人同士ではないんだけど、相手にとって必要な存在になっていく。定義できない関係になっていく。さきほどの「親密になる過程が好き」という話とも繋がるのですが、その際たる作品だと思います。2人は別れた状態なんだけど、相手が不眠症で眠れないときにスカイプで繋いであげて、相手が眠れるまで自分は大学の宿題なんかをやっているという何気ないシーンが、すごく良かったりして。周りの人に勧めても、なかなか見てもらえていないので、ぜひ見ていただきたいです。
『ノーマル・ピープル』Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」で配信中(c) Element Pictures/Enda Bowe
編集部: 広告だと、どのようなCMがお好きですか?
松本さん:一番好きなのは、加瀬亮さんと市川実日子さんが出演されていたソフトバンクのCMですね。「結婚しないか」から始まるんですけど、マジで最高です。僕は、これを見てからずっとソフトバンクですからね。あと、もう1つありまして。瑛太さんと蒼井優さんが出演されていたドコモの『国境を越えて』というCMです。「運命って信じる?」って、最近のCMだとなかなか言わないじゃないですか。時代なのか、ロマンチックなものが減っている気がしていて。もっと、こういうものをやってもいいんじゃないかとすごく思います。
編集部:最後に…よろしければ、ちい告の好きなところを教えていただけるとうれしいです!
松本さん:独特な視点で見つけた「別にしなくてもいい」ような話を、わざわざ可愛いデザインにして、印刷までして、形にしているところ。それをやってくれてありがとう!と思います。
『仲良くなれそうフラグ』(ちい告第7号)のリストは余裕で3つ以上、当てはまってしまいます。『パーティーの立ち位置問題』(ちい告第4号)も、すごいわかる。本当に難しい問題…解が欲しいですよね…。あとは『気持ち読み取りテスト』(ちい告第4号)も超よかったです!「他だれか誘う?」と書いて「誘わないで」と読む。むちゃくちゃいいなと。脚本でも、言っていることと本当の気持ちが違うという描き方って、豊かなんですよね。「この人、本当はそう思っていないのでは?」と考える余地がある感じ。やっぱり、そういう部分に面白さがあると思います。
編集部:松本さんの映像は、人と人の間にあるものが愛おしく描かれていて、いつも心を掴まれるのですが、今回その秘密が少しわかったような気がします。今日は本当にありがとうございました!
イラスト:深川優
★第1回「ちい話」市川晴華さん(CHOCOLATE Inc.)インタビューはこちら: 前篇 / 後篇
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