コラム

『SDGsに関する意識結果』から読み解く、SDGs定着期における企業ブランディングのポイントとは

生活者を振り向かせる本質的な取組みと独自性の設計が重要に

2015年にSDGs (持続可能な開発目標)が採択されて以来、さまざまな環境・社会問題を解決するための取り組みが活発になっています。ADKマーケティング・ソリューションズでは、企業と社会、企業と生活者の新しいつながり方の開発を通して、社会的/事業的にインパクトのあるソリューション開発を目指しており、このたびSDGs及び関連項目に対する人々の認知・理解度や、生活意識との関連性を分析した『SDGsに関する意識結果』を発表しました。

今回、本調査を担当したサステナビリティ・ソリューショングループの有泉昌(以下「有泉」)と、マーケティングインテリジェンス本部の中野忠夫(以下「中野」)に調査から読み解く、企業ブランディングやサステナビリティ活動におけるポイントについて話を聞きました。


有泉 昌

ADKマーケティング・ソリューションズ EXデザイン本部
EXコンサルティング局 サステナビリティ・ソリューショングループ
プランニング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
外資系企業のアカウントディレクション&プランニング業務に従事後、統合型クリエイティブプランニング部署へ。 CMやグラフィック等のマス広告開発だけでなく、プロモーションやデジタルなどアクティベーション活動の企画/実行まで、領域や手法に捉われないニュートラルな視点でのプランニングを実施。様々な企業のサステナビリティ関連活動の企画案件にも携わってきた実績をもつ。

中野 忠夫

ADKマーケティング・ソリューションズ マーケティングインテリジェンス本部
プランニング・ディレクター
大手鉄道会社に入社後、ハウスエージェンシーにてマーケティング業務を担当。その後、大手総合広告会社に入社。ストラテジック・プラナーとして、携帯キャリア、トイレタリーブランドなどの業務に従事し、2007年ADKに入社。企業ブランディング業務、BtoB企業のコミュニケーション業務、SDGs関連業務などに多くの実績をもつ。アジア、北米、南米、欧州、アフリカ等グローバル業務経験も多い。

定着期に突入したSDGs。「義務感」からの脱却、「本質」が問われる段階に。

Q.SDGsに関する最近の傾向について教えてください。

中野:SDGsの認知率は20年から22年にかけて急上昇し、そして22年以降は80%の高水準を維持しています。これはトレンドなどの一過性のものではなく、大切なテーマとして、定着期に入ったのではないかと思います。
言葉の認知率は高い一方で、「SDGsについて、わかりやすく広告をしている」と感じていない人は、全体で8割を超えており、広告表現での訴求内容が、必ずしも生活者に伝わっていないという現状も伺えます。


これは、「告知」をしなければならないという「義務感」が伴ってしまうことで、どうしても企業の持つ個性が伝わりきっていないからではないでしょうか。多くの企業が、広告・PR活動を実践し始めている中、表層的な取組みや、他社と同じような内容を訴求しているだけでは、生活者に見透かされて、響かなくなっている状況です。より本質的、その企業ならではの独自性が求められている段階に入っている気がします。

Q.その意味で、コミュニケーション設計だけではなく、専門的なコンサルティング業務、ブランドデザイン業務が重要となってくると思いますが、ブランディング領域からどのようなことを考えていますか?

中野:新NISAの開始や人材不足など、時代的なトピックスも影響して、企業ブランディングに対する関心は高まっていると感じます。企業ビジョンが明確で、社会貢献度が高い企業に対して、「今後も成長を続ける会社、将来性のある企業」として、「投資意向」や「就職意向」が高まる傾向もみられます。
そういった点でも 社会貢献や社会的価値というのは、ブランディングの面からも非常に重要となります。

また、CSV*1の考え方が浸透する中で、企業の経済的成長と、社会的存在価値は両立すべきものであり、企業の存在価値を明確化する上でも、独自性のある、本質的な社会活動が重要になってきています。

先程の「SDGsについて、わかりやすく広報・広告をしている」と感じられていない、という調査結果からも、今後は生活者の心を動かすような「わくわく」することを作れるのかがポイントになってきます。そのためには、外部からどう見えているかを把握し、経営やブランドの戦略をいかにわかりやすく魅力的に伝えるかを考える必要がありますし、コミュニケーションだけではなく、企業活動自体を魅力的なものにしていくことが問われている気がします。

一過性のものではなく、企業ブランディングとして、企業のもつ本質やパーパス、ビジョンなど、企業の存在意義を示すためのアプローチを継続的に行うことの重要性も高まっていますね。

わかりやすく、価値ある形で伝えること。サステナビリティへの取り組みはファンを生み出すきっかけにも。

Q.専門的なコンサルティング業務からどのようなことを考えていますか?

有泉:私はサステナビリティ関連のソリューションを専門とした部署で、コンサルティング・プランニングから、クリエイティブ・アクティベーション開発まで、あらゆる領域での支援を行っていますが、サステナビリティへの取り組みは、企業やブランドの「ファン」を生み出す源泉のひとつとなっていると思います。

近年、原材料や人件費など様々なコストの高騰により、各企業とも製品やサービスの価格の値上げの検討をせざるをえない状況にあり、顧客離れが懸念されています。加えて市場が成熟し、若年人口が減少している中で、今後は機能的な差別化を図るだけではなく、「好き」という感情的な差別化で商品やサービスを継続的に選んでくれるような「ファン」を作れるかどうかがカギとなります。

この、「好き」という感情は「共感」や「信頼」で成り立つものです。

近年の気候変動や新型コロナウイルスの流行によって、私たちの生活はさまざまな影響を受けるようになり、企業行動や、製品・サービスの社会性が重視されるようになっているなか、サステナビリティへの取り組みを積極的に発信していかないと「何もやっていない」と見なされ、人々からの共感・信頼を得ることは難しくなってきています。

そして、VUCAの時代においては、今まで以上に企業の「透明性」と「誠実さ」が必要となります。
調査結果の通り、取り組みの「見える化」が、投資家や金融機関といったビジネス上の関係だけでなく、生活者に対しても必要とされてきているため、情報を「わかりやすく」発信する必要があります。「わかりやすく」といっても、単純に伝えるだけではなく、生活者にとって“価値のある形”で社会に伝わるよう、メディア側の正しい状況理解と適切なコミュニケーションの設計が必要です。

■ADKではサステナビリティ・コミュニケーション領域におけるコンサルティングから実行支援まで可能な
SXコミュニケーション サポートプログラム」を提供しています。

また、「ファン」という考え方は、製品購買者やサービス利用者はもちろんのこと、企業の従業員やその家族、取引先や就活生など、様々なステークホルダーとの関係強化にも繋がります。したがってB2C企業のみならず、B2B企業にとってもサステナビリティへの取り組みは非常に重要であると考えています。

そして、もうひとつ重要なことは、サステナビリティ活動が事業に連動すること。いわゆるCSVという考え方です。
これまで様々なクライアントと対話してきましたが、「サステナビリティはビジネスに結び付けていかないと続けられない」という声も多くあり、今はまだコストと捉えられがちです。事実、サステナビリティに資する商品やサービスは、付加価値に転換したビジネスにしていかないと、継続が難しいです。持続可能性と言いながら持続できないというジレンマを抱える企業も少なくありません。

有泉:ここでADKが支援した事例として、チューリッヒ保険会社の「カーボンニュートラル自動車保険」をご紹介します。このサービスは22年10月にローンチした業界初の取り組みで、契約者さまの運転にかかるCO2を車のタイプ・走行距離によって算出、可視化し、オフセットクレジットの購入で埋め合わせできるサービスです。

チューリッヒ保険会社の「スーパー自動車保険」の契約者さまが対象のサービスになりますが、簡単なオンライン手続きで利用でき、クレジットは国内外の森林保全活動にあてられます。また、契約者さまが払う金額と同額をチューリッヒ保険会社の方でも寄付をすることで、「ともに」、気候変動の問題に取り組み、この解決を加速していこう!といった企業メッセージを打ち出しています。
このサービスをローンチするにあたり、我々ADKが脱炭素関連のコンサルティングからサービス自体の企画提案と開発実行支援、PR活動や広告制作まで、ワンストップで支援・伴走しました。

チューリッヒ保険会社「カーボンニュートラル自動車保険」特設ページ
https://www.zurich.co.jp/carbonneutral/

この事例のように、ユーザーの方々と一緒に社会問題の解決に取り組んでいくための製品やサービスを開発しながら、積極的にコミュニケーションをしていくことで、共感や信頼を得ることができるのではないかと考えています。
また、短期的な売り上げに繋がらなくとも、早め早めに取り組むことで、先行者としての技術的・イメージ的な競合優位性も図ることも可能です。

有泉:企業によるサステナビリティへの取り組みは、限られた人のみが対象になりがちです。また、企業や投資家の文脈だけで語られることがまだ多い状況です。
発信される情報においては、第三者性や信憑性が求められている昨今、外部の我々が第三者として、企業によるサステナビリティの取り組みを、事業活動やマーケティング・コミュニケーション活動に昇華しながら支援することで、“本質的”で“開かれた”サステナビリティ活動の実現と浸透に挑戦していきたいと考えています。

*1 CSV
「Creating Shared Value(共通価値の創造)」の略語。 企業が本業の中で社会課題の解決に取り組むことで、経済的な価値と社会的な価値の両立を目指す考え方。

<サステナビリティ・ソリューショングループについて>
顧客体験価値の最大化を目指した顧客体験ソリューションを開発するEXデザイン本部 EXコンサルティング局の組織で、コンサルティング・プランニングから、クリエイティブ・アクティベーション開発まで、クライアントのサステナビリティ領域の業務推進を支援。「社会課題」と「クライアントのビジネス課題」を同時に解決していくことを目指しています。

<マーケティングインテリジェンス本部について>
「顧客データ&インサイト」の観点からクライアントビジネスに寄り添い、マーケティング課題をはじめとして、都度必要な解決策を様々なレイヤーで提示・実行できるスタッフが集っている組織。マルチデータに基づく課題発掘を起点に、社内外の各セクションと連携しなら、KPI/KGI達成に向けたフルファネル戦略をプランニングしています。

<ADK生活者総合調査について>
2008年度よりADKが毎年関東・関西エリア在住の男女10,000名以上を対象に行っている、独自の大規模生活者調査。意識/価値観・消費行動・メディア接触などの多岐にわたる項目を、同一のサンプルに聴取したシングルソースデータとなっており、生活者の意識・行動からメディア接触まで一貫した分析が可能です。また、ADK MS では東京大学、早稲田大学、武蔵大学と「データサイエンス領域」で連携し、教育・研究用に過去の生活者総合調査データを無償で提供しています。

―調査概要(2024年調査)―
目的:生活者の生活行動・価値観・メディア接触を多面的に把握するため
対象エリア:関東 (東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・群馬県・栃木県・茨城県)
関西 (大阪府・京都府・兵庫県・奈良県・和歌山県・滋賀県)
対象者条件:15~69歳の男女(中学生は除く)
サンプル数:16,894名
調査手法:インターネット調査
調査期間:2024年5月14日(火)~6月3日(月)
ウエイトバック集計:国勢調査の人口構成、関東・関西のエリア構成に合わせてウエイトバック集計を実施

※関西地区は2015年より調査対象。
調査結果引用の際には、「出典:「ADK生活者総合調査2024」」とご記載ください。

<株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ 会社概要>
マーケティング領域全般における統合的なソリューションをフルファネルで提供。2021年に始動した事業ブランド「ADK CONNECT」がフラッグシップとなり牽引するデジタル&データドリブン・マーケティング領域では、専門性の高いスペシャリストが組織横断で集結し、クライアントのビジネス成果に貢献する「価値ある顧客体験」をご提案します。
・ADK MSウェブサイト https://www.adkms.jp/


【本件に関する問合せ先】
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
 EXデザイン本部 EXコンサルティング局 サステナビリティ・ソリューショングループ 有泉 昌/e-mail: Sus_Sol_prj@adk.jp
 マーケティングインテリジェンス本部 中野 忠夫/e-mail:tnakano@adk.jp
株式会社ADKホールディングス 
 経営企画本部 PR・マーケティンググループ 内山/伊藤 e-mail:mspr@adk.jp

ADK Marketing Solutions Inc.