コラム
シニアを制するものはシェアを制する。高感度積極派?しあわせ整え派?多様化するシニアたち。
ad:tech tokyo 2024 公式カンファレンスレポート
2024.11.05
高齢者人口が増加する中、シニア層の消費行動は市場に大きな影響を与えています。多様化が進むシニア層のペルソナ設定、デジタル利用状況の考慮、そして彼らが求める居場所の作り方など、様々な要素を組み合わせ、どのようにブランド価値を定義すればいいのか。2024年10月16日(水)-18日(金)に開催されたアドテック東京2024(ad:tech tokyo 2024)の公式セッション『シニア世代のインサイトとマーケティング』では、様々な立場でのプロフェッショナルを交え、多様化するシニア世代のインサイトとマーケティングについて議論が行われました。
会場は超満員、人気セッションランキングでも堂々の5位入賞となった本セッションのレポートを公開します。
登壇者
株式会社JTB 執行役員 ブランディング・マーケティング・広報担当 兼 CMO
風口 悦子 氏
サントリーウエルネス株式会社 ヘルスケア事業部長
伊戸 隆二 氏
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 専務理事/一般社団法人デジタル広告品質認証機構 代表理事/株式会社明治 特別顧問
中島 聡 氏
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ マーケティングインテリジェンス本部「今どき☆新シニア研究所」所長
稲葉 光亮
なぜシニア層にフォーカスするのか
中島氏:色々な定義があるシニア層ですが、国連の定めでは65歳以上がシニアとされています。65歳以上の人たちが人口構成比の7%以上となると高齢化社会、14%以上が高齢社会、21%以上が超高齢社会となります。現在はすでに30%弱となっており、超超高齢社会とも言えますね。特に日本の場合、倍化速度が非常に早く、わずか20年ぐらいで倍々と伸びていることが非常に問題で、こうなってくると、年齢というものを1つのダイバーシティの観点として捉える必要があります。
そして、シニアの実情については、以下のようにポイントをまとめられると思います。
- 時間消費======大切な時間
- 循環型=======コーホート技法
- 本物志向======納得型消費
- ヨコ型コミュニティ=情報の横展開
- 安心安全======ブランド
- 縁重視=======第3のコミュニティ
- 人生逆算======今を大切に
- 全肯定と全否定===小さなミスが命取り
- 居場所を創る(拠るべき場所がない)
- 音声と視覚そしてブランド戦略(流動性知能と結晶性知能)
これらの特徴から、シニアを制するものはシェアを制する、ということが言えると思います。シニアを意識した商品開発をすることは、マーケティング戦略の基本の「き」を抑えることも同然となりますので、結果として若い方々にも刺さる商品開発に繋がると思います。
風口氏:シニアの方々は、お金がなくなるかもしれない、健康でなくなるかもしれない、そうした時にこうなければならない、という結晶性知能が故の足かせみたいなものもきっとあると思いました。その中で、この大切な時間をいかに使っていくかって、工夫のしどころなのかもしれませんね。
高感度積極派?しあわせ整え派?多様化するシニアたち。
稲葉:いまは世代的に見ても、いろいろなシニアの方がいるので、単に“シニア”と一括りにするのは無理があると思い、ADKではどのようにサービスのターゲットにするかということを考えてきました。
例えば、当社のオリジナル調査「ADK生活者総合調査*」で、60代以上の方に「自分には “オタク” 的なところがあると思うか」と四段階評価で聞いたところ、2012年、2017年、2021年とどんどん増加しています。実に2021年は2012年の約1.4倍が、自分にはオタクっぽいところがあると回答しています。
そして、様々なシニアの方々を、今までの生き方に加えて、これからどう生きたいか、どう生きているのか、ということを一元化するために、ADK生活者総合調査の中の生活価値観 約40項目を基にクラスター分類を行いました。
※構成比=50~70代男性・女性それぞれにおける構成比(%)/推計人口は令和4年4月推計値を基に算出
年齢やお金の有無、住んでいる場所よりも、強い生き方の指針でシニアはタイプ分けできると考えています。
男性だと、積極的にいつまでも現役でいたいという「1、高感度積極派」の人もいれば、一人にしておいてほしいという「3、マイペース現実派」、人や地域との絆を重んじる「4、道理一徹派」などがいます。
また女性では、「1、パワフル実践派」だとアクティブな消費リーダーで、かつインフルエンサーでもあり、消費をリードします。「3、しあわせ整え派」では幸せ度が一番高く、消費者としてはフォロワーですが、お孫さんやお子さん、旦那さんなど、家族が消費のトリガーとなり、お金を使うときには使うといった方もいます。このように人それぞれの生き方が消費に繋がり、それは製品やサービスをどう訴求していくかを考える上でのヒントとなり、実際に商品開発をお手伝いする場面でも活用しております。
ヘルスケアからウエルネスケアへ
伊戸氏:私はサントリーでウェルネス事業を展開しており、主にサプリメントを提供しています。しかし、サプリメントだけでは健康を支えることはできないという認識を改めて持ち、その上で活動を進めています。
健康になるためには、栄養だけでなく、運動と睡眠も必要です。これはお客様自身が実践していただかなければならないことであり、サプリメントを提供するだけでは十分ではありません。お客様に運動と睡眠を実践していただくために、何が必要なのかをしっかりと考え、向き合うこと。そして、仮に体が健康になったとしても、心の健康、そして社会とのつながりが満たされないとウェンスには至りません。
一昨年から「comado」というアプリを、当社のロコモアを飲んでいただいているお客様をはじめ、多くのお客様向けに提供しています。アプリ内では、オンラインフィットネスを提供しており、参加者の皆さんは顔出しで参加し、トレーナーとやり取りしながら運動を行うことができます。一人ではなかなか運動が続かないという方でも、仲間と一緒にトレーナーから励まされることで、運動継続することができます。
また、最初はアプリを使うことに抵抗がある方でも、いざ始めてみるとそこに“繋がり”があるので、続けていただいている方が多いです。
稲葉:やはりシニアの方々は思っているより柔軟で、目的のためには手段を選ぶことも、接点を選ぶこともあります。弊社の調査でも、シニアの方々がテレビや新聞をよく見る一方で、ウェブサイトやSNSも見ているという結果も出ています。そういう意味では非常に情報接点が広いので、自分の目的に合わせて、どの接点でどの情報を得るかをかなり考えているのです。
シニアマーケティングという観点からアドバイス
稲葉:今見てきたように、シニアの方々はたくさんいますが、先入観や誤解、思い込みは一度捨てていただいた方がいいです。私が接しているシニアの方々はかっこいいし、綺麗だし、可愛いし、賢いです。そういう方々と付き合うと面白いマーケティングができると思います。
伊戸氏:シニアの方々にとって、継続し続けることはとても大変だと思うので、それをやりたいことにどう転換するか、というところを自分としては心がけていきたいな思っています。今回のお話しが皆様の参考になれば幸いです。
中島氏:シニアの方々は決して裏切らないと思います。話を聞く、というところから寄り添っていただければ、素晴らしいマーケティングができるかと思います。
風口氏:シニア層というのは多様化しており、今まで思っていたシニア層とは全く異なるということです。
日本はシニア層に対するアプローチの先進国です。シニア層を抑えることで、グローバルに展開する際にもこの知見が役立つと思います。何事も制限事項は逆に可能性を見つける鍵になると思うので、ぜひ皆さん、今シニア層をターゲットにしていないようなソリューションやマーケティングに携わっている方々も、シニア層に着目してみてください。そこにあるインサイトがいかに自分のところに転換できるかを考えてみてください。
稲葉 光亮
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
マーケティングインテリジェンス本部 第4プランニング局 「今どき☆新シニア研究所」所長
1985年、㈱旭通信社(当時)に入社。各業種のコミュニケーションプランニングに携わり、2005年よりR&D本部でシニア層やキャラクター等の研究・知見を蓄積。2011年にシニアプロジェクト設立に参画、2017年「今どき☆新シニア研究所」に改名し所長を拝命。シニア層の探求とコミュニケーション活用の各種知見を対外発信し、執筆・取材・講演多数。(一社)高齢社会検定協会認定「高齢社会エキスパート(総合)」。
ADK MSでは今後も様々なテーマで、皆様のマーケティング活動における課題解決のヒントをお届けできるよう進めてまいります。
本セミナーに関するお問い合わせについては以下よりお気軽にご連絡ください。
担当の営業および専門スタッフが個別のご相談・課題に回答させていただきます。
*ADK生活者総合調査について
2008年度よりADKが毎年関東・関西エリア在住の男女10,000名以上を対象に行っている、独自の大規模生活者調査。意識/価値観・消費行動・メディア接触などの多岐にわたる項目を、同一のサンプルに聴取したシングルソースデータとなっており、生活者の意識・行動からメディア接触まで一貫した分析が可能です。また、ADK MSでは東京大学、早稲田大学、武蔵大学と「データサイエンス領域」で連携し、教育・研究用に過去の生活者総合調査データを無償で提供しています。
<本件に関する問合せ先>
株式会社ADKホールディングス
経営企画本部 PR・マーケティンググループ 内山 e-mail:mspr@adk.jp