コラム
「牛たんの新しい仙台みやげを創ろう!プロジェクト」初の商品開発から、仙台駅での販路決定まで
東日本ネットワーク支社「地域グロース支援プロジェクト」②
2025.01.23
東日本地域には豊富な食材や観光資源、特定の分野に特化したスキルを持つ企業が多く存在します。しかし事業規模の制約から多様なスキルを持つ人材の確保が難しく、特にマーケティングスキルの不足がビジネス成長の妨げとなっているためADKマーケティング・ソリューションズ(以下、ADK MS) 東日本ネットワーク支社では「掛け合わせ」と「共創」をキーワードに「地域グロース支援プロジェクト」を立ち上げました。前回の記事では、その一環として宮城県、福島県、山形県の地域企業と連携した共創型プロジェクト「D2Cビジネスグロースチャレンジ」のご紹介をしました。(記事はこちら)
そしてこの「地域グロース支援プロジェクト」のもう一つの取り組みとして、2023年12月より宮城県・山形県の地域製造事業者と共同で「牛たんの新しい仙台みやげを創ろう!プロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトでは、仙台名物の「牛たん」をテーマにした新しい仙台土産を開発し、実際にJR仙台駅構内やJR古川駅、そして仙台国際空港などの店舗で発売しています。
今回の記事では、この「お土産プロジェクト」について、その狙いや今後の展望についてプロジェクトを推進する東日本ネットワーク支社のグロースマーケティングデザイン室の、佐々木賢哉に話を聞きました。
左から:伊藤、後藤、佐々木、菅井
地域グロース支援プロジェクトにおける「掛け合わせ」と「共創」の実践。新しいお土産ブランドの開発
編集部:東日本ネットワーク支社で実施しているお土産プロジェクトに関して、企画に至った背景と企画概要を教えてください。
佐々木:お土産プロジェクトでは、我々が地域グロース支援プロジェクトにおいて大事にしている「掛け合わせ」と「共創」を、地域製造事業社各社の確かな製造力、仙台放送の地域に根ざした信用力、JR東日本東北総合サービスの仙台駅での販売協力、そしてADK MSのマーケティング力を組み合わせ実施しています。これまでにない連携により、それぞれの強みを活かし、分業と協働を通じて共創型の新しいお土産ブランドの開発を進めています。
具体的には、仙台といえば真っ先に思い浮かぶ「牛たん」をテーマに、これまでの牛たん土産が持つ課題をマーケティングの視点から解決するため、ターゲットセグメントと提供価値を明確にしたコンセプトで複数の地域製造事業社と協力し商品開発を進めました。「牛たんの●●●」という統一ネーミングとオリジナルアイコンを用いて、共創型ブランディング商品として販売を始め、現在では7社が参加し、8つのアイテムを展開するまでに拡大しています。
マーケティング会社として挑む、事業会社としての新たな収益モデル
編集部:お土産プロジェクトは商品開発から販路確保まで広域な範囲で携わられていますが、既存の広告ビジネスとの違いや、面白かった点・苦労した点は何だったでしょうか?。
佐々木:既存広告ビジネスとの違いは、やはり事業会社のマーケティングプロセスを自ら体感できるところです。既存の広告ビジネスは、基本的に広告主の要望や課題に対応した広告コミュニケーションのソリューションを提供する「受注型ビジネス」が多くを占めています。しかし、お土産プロジェクトでは、私たち自身がマーケティング視点でターゲット市場と商品コンセプトを定め、製造事業社を募り、販路を開拓し、宣伝計画も自ら立てて実行するという形で、マーケティングプロセス(4P)をすべて私たち起点で進めていきます。そして、商品をローンチして終わりではなく、地域を代表するお土産ブランドへと育て上げるこれからのフェーズで、その真価が問われる点が、これまでの広告ビジネスとは大きく異なります。
その中で面白かった点は、自らの仕掛けがプロジェクトの収益に直結するところです。既存の広告ビジネスでは、収益が広告主の予算額によってほぼ決まってしまいますが、このプロジェクトでは商品の販売額に連動して毎月の報酬が決まる仕組みです。そのため、商品アイテムを増やしたり、販路を広げたりするなど、商品売上を上げるための様々な仕掛けの良し悪しが直接的に私たちの収益に影響します。この点が非常に面白いところです。一方で、毎月の売上高を確認するたびに、商品を製造販売される事業会社の方々が日々このような緊張感と共に事業を推進されていることを実感しています。
苦労した点は、最初にご参画頂いた地域製造事業社3社が確定するまでの営業活動です。現在では7社で8アイテムの展開となっていますが、前例のない取り組みであったため、ここに至るまでには70社を超えるアプローチが必要でした。また、牛たんの価格高騰が影響し、参画社の途中辞退が相次いだため、再び一から探すことになるなど、ローンチに至るまでの営業活動が最も苦労した点です。
最もハードルが高かったのは、最初の商品化
編集部:現在8商品が展開されていますが、特に注力した商品、売れ行きがいい商品は何でしょうか?
佐々木:現在8商品を展開しているのですが、その中では、ジャーキー、南蛮味噌、せんべいが売価が540円(税込)と手頃なこともあり、売れ筋です。またカレーやラーメンなど他の商品も、非常に好調な売れ行きを見せています。
今回の取り組みは前例がないものであったため、本プロジェクトへの理解を得て、チャレンジする決断をしていただく必要がありました。そのハードルが非常に高かったことから、個人的には最初にご参画頂いた3社の商品(ジャーキー、カレー、せんべい)には特に思い入れがあります。
東北エリア最大の乗降客数を誇る販路・仙台駅の決定。秘密は、「熱意・技術力・信頼力」
編集部:取扱店舗が決定したポイントなどの販路戦略に関して教えてください。
佐々木:新しいお土産の開発・販売を通じて地域活性化を図る際、新商品デビューの販売場所として年間約3,300万人の乗降客数を誇る仙台観光の玄関口である仙台駅を選ぶことが不可欠だと考えました。このため、仙台駅での販売を実現することが必須であると判断しました。
しかし、前例や実績のない取り組みであるため、精緻なマーケティング理論だけでは前に進むことはできません。この地域をお土産で活性化するという想いや熱意、長年この地域で商売をされてきた製造事業社各社の持つ商品製造技術力、そして共創メンバーである仙台放送の持つ絶大な信用力が、プロジェクト自体の信用を担保し、仙台駅での販売実現に向けた大きな力となりました。
そして結果的に、「仙台駅での販売」という事実が、さらなる地域製造事業社の参画や販路の拡大につながりました。
地域企業の力を結集!共創による持続可能な発展を目指して
編集部:今後の取り組みや展望を教えてください。
佐々木:今後は、エンタメお土産など「コト型」のお土産を開発していくことを計画しています。また、LINEギフトのグルメ部門では牛たんの人気が非常に高いので、お土産を超えたソーシャルギフトとしての販売に向けた準備も進めています。このように、通常の製造事業社とは異なる視点でのアイデアやマーケティングに基づいた販売拡大施策は、私たちならではの提供価値だと考えています。
各地域企業のスキルは限られていますが、だからこそお互いのスキルを「掛け合わせ」することで地域課題を解決し、新たな価値を共創することができます。当社も地域企業の一員として、今後も引き続き強みであるマーケティングスキルを提供していきます。そして、この共創プロセスを通じて地域企業同士のネットワークを強化し、相互に刺激・支援し合う体制を築くことも重要です。こうすることで、地域全体が一体となって成長し、共に持続可能な発展を目指すことができると信じています。
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菅井 浩一 国内ネットワーク本部長代理 1997年に旭通信社(現ADKマーケティング・ソリューションズ)に入社後、東北支社長、北海道支社長を歴任し、数多くの地域企業のマーケティング支援に携わる。東北大学大学院経済学研究科地域イノベーション研究センターの特任准教授(客員)として、地域企業の新規事業創出プログラム(地域イノベーションプロデューサー塾/北海道大学共催)のアドバイザーも務める。 |
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佐々木賢哉 国内ネットワーク本部 東日本ネットワーク支社東北支社 統合メディアグループ長 兼 グロースマーケティングデザイン室 2011年にADKマーケティング・ソリューションズ中途入社。北海道支社にてメディア担当として数多くの地域企業のメディアプランニング、バイイング業務に携わる。2021年4月より東北支社に転属、メディア業務と並行して2022年5月からお土産プロジェクト業務を開始、現在に至る。 |
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後藤 拓哉 国内ネットワーク本部 東日本ネットワーク支社 グロースマーケティングデザイン室 シニア・プランナー 2002年にADKマーケティング・ソリューションズ入社後、ビジネスプロデューサーとして流通・金融・不動産・メーカーなど様々な企業・自治体のプロモーション業務に従事したほか、マーケティング/メディアプランナーとしてコミュニケーション戦略のプランニング業務を経験。現在は、D2Cビジネスを中心に地域企業のマーケティング支援に携わる。 |
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伊藤 宏樹 国内ネットワーク本部 東日本ネットワーク支社 東北支社 兼 グロースマーケティングデザイン室 シニア・ビジネスプロデューサー 2018年にADK(現ADKマーケティング・ソリューションズ)中途入社。ビジネスプロデューサーとして、ブランド米プロモーション、地方銀行の企業ブランディングや、D2Cクライアントとしてクラフトビール会社のファンマーケティング業務等を経験。現在は、BPと兼務しながらD2Cクライアントの伴走支援を行っている。東北大学大学院経済学研究科地域イノベーション研究センター・地域イノベーションアドバイザー塾 修了。上級ウェブ解析士。 |