コラム

『二坪喫茶アベコーヒー』店主・阿部まりこさんインタビュー

あなたとちいさな話がしたいんです 略して…ちい話!


大事なことって、ちいさなことに詰まっている

(気がする)。広告されない ちいさなモノゴトマガジンちい告編集部がゲストをお招きし、その方が大事にしているちいさな物事について伺っていこう!そして、ちい告の肥やしにしていこう!というインタビュー企画です。

今回のゲストはこの方!
阿部まりこさん

新潟生まれ。猫好き。

広告制作会社勤務時に友人から誘われてコーヒー屋に転向を決める。2017年12月溝の口のコワーキングスペースの一角にて二坪喫茶アベコーヒーを開業。現在は同じく溝の口にてコーヒーと1日1品のどんぶりを扱う二坪食堂も運営中。二坪食堂は夜になると二坪酒場と名前を変えて世界の妄想郷土料理とお酒を提供する店になる。他、撮影現場へのコーヒーポットサービス事業も行う。
Instagram: @futatsubokissa_abecoffee Web: https://www.2tsubo.com/kissa/

編集部:『ちい告』編集部メンバー大橋と友人だったご縁で、阿部さんには、創刊号からお店に置いていただいており、かれこれ6年近くお世話になっています。二坪という小さいスペースで、地域の人やファンの人と濃くて深いつながりを生み出している『二坪喫茶アベコーヒー』から、我々『ちい告』が勉強できることがたくさんありそうだと思っているので、色々とお話を伺えると嬉しいです!

阿部さん:がんばります!

編集部:まずは、阿部さんが店主を務められている二坪喫茶アベコーヒー、二坪食堂、二坪酒場(二坪食堂の夜の部)、それぞれのお店について教えてください。

阿部さん:まず二坪喫茶アベコーヒーは、築97年の診療所を改装したコワーキングスペースとレンタルスペースがある施設『nokutica』の一角にある、それこそ本当に二坪でやっているコーヒースタンドです。
「建物の入り口に、街とのコミュニケーション部分となるコーヒースタンドを作りたい」と、街の不動産屋さんと友人のインテリアデザイナーから依頼があり、2017年に始めたお店です。
同不動産屋さんが溝の口にもう一つコワーキングスペースを作ることになり、「建物の入り口に二坪程スペースを設けるから、今度は、ご飯がしっかり食べられて社食のように使えるお店をやって欲しい」とオーダーがありました。「じゃあ、二坪で食堂をやりますか!」という話になり、2020年に誕生したのが二坪食堂です。二坪食堂は、夜になると二坪酒場へと姿を変えます。そちらは、「妄想世界旅行」がテーマ。オープンがコロナ禍だったので、気持ちだけでも旅行しましょうということで、どこかの国の家庭料理に、発酵が得意なスタッフとスパイスが得意なスタッフがアレンジを加えています。毎週変わる料理に合わせてお酒も変えて、ペアリングを楽しんでもらえるお店です。夜の二坪酒場は、ちょっとクセ強めで、人に勧めたいけどやっぱり内緒にしたい秘密基地みたいな場所。昼の二坪食堂は、誰でもふらっと立ち寄れて、気持ちが軽くなって帰っていける柔らかい場所。二坪喫茶アベコーヒーは、家事育児や仕事の途中にちょっと寄って、オンからオフになれる場所。全店を通して「ちょっと息抜きする場所」というテーマを持っています。

溝の口に店を構える『二坪喫茶アベコーヒー』(写真上段)、『二坪食堂』と二坪食堂の夜の姿『二坪酒場』(写真下段)。

時が来た…!広告制作会社からの転身

編集部:もともとコーヒー屋さんを目指していたんですか?

阿部さん:昔からずっと、将来は人が集まる空間をやりたいと思ってはいましたが、アベコーヒーを始めるまでは広告制作会社で働いていました。
アベコーヒーが入っている施設『nokutica』の内装を手掛けた友人のインテリアデザイナーとグラフィックデザイナーの夫婦と、昔、同じマンションの3階と4階に暮らしていて、毎日一緒に過ごすほど仲が良かったんです。そのマンションを出て数年後、「コーヒー屋をやらない?」と声を掛けてもらったのがきっかけでした。その夫婦も『nokutica』内にオフィスを借りることになっていたので、前みたいに同じ場所で過ごせることが嬉しくて、すぐに心を決めました。
たしか次の日には、会社に伝えていたと思います。入社した時からずっと面倒を見てくれた上司だったから、私がいつかは喫茶店をやりたいと話していたことを覚えていてくれて、「時が来たね」と送り出してくれました。
そこから半年掛けて会社を辞めて、本格的にコーヒーの勉強を始めました。お湯の沸かし方から教えてもらい、最終的にはメルボルンにコーヒーの勉強にも行きました。

ささやかなことを、積み重ねて。

編集部:ゼロからのスタートだったんですね!今では「街のコーヒー屋さん」として地元から愛される存在ですが、どのようなことを心がけていますか?

阿部さん:うちの店は、テイクアウトのコーヒースタンドなんですけど、ただ注文を受けて作って渡すのではなく、そこに会話が生まれるようにすごく心がけています。もちろん話したくなさそうな方には話しかけないのですが、「ここのコーヒー屋に来ると、ちょっと喋れていいな」とか、そのくらいささやかなコミュニケーションを積み重ねてきました。お客さんのことをなるべく覚えるようにして、「こないだのアレがお好みだったのなら、たぶんこっちもお好きですよ」という話をしつつ、コーヒー豆のことも蘊蓄くさくならないように、本当にちょびっとだけ説明されてもらう感じですね。

編集部:コーヒーやおやつだけでなく、催し物も魅力的です。どのように企画されているのでしょうか?(先日の『花喫茶室 by VOICE』は、あまりの麗しさに息を呑みました…)

阿部さん:コロナ禍より前は、月1とか2ヶ月に1回ワークショップをするようにしていたんです。金継ぎや張り子、フラワーショップVOICEさんのお花を束ねるワークショップなど色々やりましたね。
『花喫茶室』は周年企画として、とにかく皆さんに感謝を伝えつつ、アベコーヒーを知っていてちょっとラッキーみたいに感じてもらえたらいいなと思って。VOICEさんにお願いして、最後の晩餐みたいなスペシャル感のあるお部屋を作りました。

フラワーショップVOICEさんによるお花で設られた喫茶室。アベコーヒーが入っている施設『nokutica』内で展示された。

アベコーヒーと、桜。

編集部:お花と言えば、店先に桜が現れる光景も春の恒例ですよね。

阿部さん:桜には、特別な思いがあります。毎日来てくれていたお隣のおじいちゃんとおばあちゃんがいたんですけど、おばあちゃんは足が悪くて車いすに乗っていらして。アベコーヒーから10分ほど歩いたところに桜並木があるのですが、そこまで行けなくて残念だと聞いて、「じゃあ、アベコーヒーに桜を咲かせますよ」とお答えしたんです。「アベコーヒーだったら隣だし、毎年ここでお花見したらいいですよ」って。お花が大好きだった、そのおばあちゃんのために始めた恒例行事なんです。おばあちゃんは亡くなってしまって、おじいちゃんも今はお隣に住んでいないのですが、それでも続けています。

春になると店先に現れる桜。コーヒー片手に、束の間のお花見が楽しめる。

人間くささを、ちゃんと出す。

編集部:すごく細かい話なのですが…アベコーヒーはインスタも楽しくて、私も投稿のファンです!

阿部さん:ありがとうございます!ちゃんと一人の人間がやっている店なんだよ、マニュアルじゃないんだよっていうのをわかってもらえるように、人間味やユーモアを大切にしています。業務連絡みたいな固い発信をしていると、お客さんは店から線引きされているように感じるんじゃないかと思って。固い文章が好きな人もいますし、それもいいと思うのですが、私は実際に会うと全然固くないじゃないですか(笑)ちゃんと投稿と本人とのギャップを埋めなきゃというのは気にしていますね。人間味が見えるように、あとちょっとだけコラムっぽくなったらいいなとも思っています。

編集部:かき氷メニューをいつ終えるか葛藤している投稿が好きでした。季節と暮らす感覚が素敵だなと。

阿部さん:今日も朝、「インスタグラムの文章が好きです」とお客さんに言ってもらえて。嬉しいです!

編集部:阿部さんが大事にしている小さな視点や習慣を教えてください。

阿部さん:自分の気持ちを掘り下げるというのを習慣化しています。ちょっとネガティブになっちゃうんですけど、嫌なことがあったときに「なんでこんなに嫌なんだろう」というのを考える。掘り下げる前の段階で対応しても、本質じゃないから空振るというか、何もクリアになっていかなくて、ずっとモヤモヤしたまま…みたいなことがすごく多くて。逆に嬉しかったときも、「なんでこんなに感情が動くんだろう」と考えます。「このタイミングで、こういうふうに気を遣ってくれるのが、私は好きなんだ」とか、ちゃんと心に留めるようにしています。

ちい告が、コミュニケーションツールに!

編集部:創刊号から『ちい告』を置いてくださり本当にありがとうございます!阿部さんが思う『ちい告』の好きなところを教えてください。

阿部さん:お客さんたちがコーヒーを待っている間に、その場で読んでくれていますよ。みんな好きなネタが違うから、お互いにああだこうだ言いながら盛り上がっています。ちっちゃい子からも人気です。「『ちい告』あります」のお知らせをすると必ず来てくださる方もたくさんいます。
私は、「『お』つくものつかないもの考察」(9)が好きですね。あれは、ゲームになると思うんですよ。『お』がつく/『お』がつかない/人によるという3種のカードの山を、真ん中に置いて順番に引いていく。引いたカードに合った単語を答えて、みんなでジャッジするみたいな。たとえば「『お』がつく」カードを引いた人が「おりんご」と答えたら、「それは、ないんじゃない?」とか、みんなで協議して盛り上がるイメージです!

編集部:阿部さんのお人柄が作る居心地のいい場所に、『ちい告』を置いていただけることが本当に幸せです。今日はありがとうございました!


★第1回「ちい話」市川晴華さん(CHOCOLATE Inc.)インタビューはこちら:  前篇  /  後篇
★第2回「ちい話」松本壮史さんインタビューはこちら

『ちい告』とは。
広告されない、ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』。時が経てば忘れてしまう「クスッ。」や「キュン!」を手のひらサイズにギュギュッとつめこんだフリーペーパーです。(ADKグループから不定期発行。次号も準備中です!)

【共同編集長】片岡良子(CHERRY)・川瀬真由(ADKマーケティング・ソリューションズ) 
【デザイン】大橋謙譲 (CHERRY)

イラスト:コマツタスク

 

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