コラム

2024年度TCC新人賞 受賞者対談!クリエイターとしての「これまで」と「これから」

ADKグループでは昨年、東京コピーライターズクラブが主催するTCC賞において、クリエイティブブティックCHERRYに所属する原田堅介が最高新人賞を、ADKマーケティング・ソリューションズ エクスペリエンス・クリエイティブ本部所属の星聡宏が新人賞を受賞しました。
入社年が1年差で、新卒入社当時から親交があったという二人。今回は、クリエイティブ部門に異動する前のエピソードも踏まえて、クリエイターとして今考えていることや、今後の目標について聞きました。

左から ADK MS星聡宏、CHERRY原田堅介

―お二人それぞれ簡単に自己紹介をお願いします。
原田堅介(以下 原田):僕は入社が2007年で、飲料メーカーさんの担当をメインに営業職を4年間経験して、2011年の5月にクリエイティブに転局したので、(クリエイティブとしては)次の5月で15年目になります。

星聡宏(以下 星)2008年に入社して、東京の営業部門に3年半いて、九州支社に営業職として勤務したあと、2013年にクリエイティブに移りました。

―お二人とも同じ社員寮に住んでいたと聞きました。

二人が住んでいたアサツー ディ・ケイ太子堂住宅

原田:僕は当時あった寮に2009年の末ごろまで住んでいて、星くんも2008年の入社後に寮に来て、部屋が上下でした。その頃からずっと、僕の中では意識してきた人の一人です。

:ほんとか~!?(笑)

原田:本当だよ!才能がすごかった。星くんがコピーライターで僕はCMプランナーでしたが、同じ上司の下に付いて、オフィスの同じ島にいた時期もありました。

―同じ部署の時期もあったのですね。

:でもあの期間って短かったですよね。たぶん、2、3か月しかなかったと思う。

原田:あ、そう!?

:僕が2013年の末ごろに(クリエイティブに)異動してきて、席も原田さんの隣だったんです。でも次の年に部署の構成が変わったから、隣の席だったのはそれまでの間だったと思う。

原田:そっか。長かった印象があるけど、2か月ぐらいか。

―原田さんも星さんも、営業職からクリエイティブに異動されています。

原田:当時の社内制度では、クリエイティブへの転局試験を受けるには別の部署を3年経験する必要がありました。ただ、僕は2年半経ったくらいで受けたんじゃないかな…。でも、当時いた営業チームが少ない人数で大規模の案件を担当していたから引き継ぎも大変で。合格した後も“切符”を持ったまま、約1年半営業を担当していました。

:僕は九州支社に異動後、ちょうど1年経った頃に試験に合格して、九州支社に計2年くらい在籍したあと、クリエイティブに異動しました。

原田:星くんは寮にいた頃、「クリエイティブに行きたい!」みたいな匂いを出してなかったんですよ。

:僕も、原田さんがクリエイティブ志望だと思いませんでした。

原田:そうだよね(笑)当時、クリエイティブに興味はあったけど、自分が行くものとは思っていなかったな。

:寮に住んでいた頃、未だに覚えているエピソードがあって。
当時、僕が出かけるときに、近所にあるレンタルショップの袋を持った原田さんが帰ってきたんです。冷やかし半分で「何借りたんですか~?」って聞いたら、「小津安二郎」と言っていて。当時は絶対ウソだと思ったんですよ(笑)そういう分野に興味がないと思ってたから。でもクリエイティブに移ってから、当時から表現が好きな方だったって知ったんです。

―クリエイティブへ異動後に経験を重ねてきて、自分は何が得意なクリエイターだと思いますか?

:…難しいな。お互いに言ったほうが楽しいかもしれない(笑)

原田:星くんは、世の中を捉える視点が正しいけれど歪んでいて。良い意味で(笑)

:たしかにそうかもしれない。

原田:あるとき一緒に話していて、課題やサービスについて「調べることに時間を費やして、書く時間があんまりない」と言っていて。僕もそれを参考に、取り入れてみたことがありました。

:思い出した!公募賞に応募するコピーを見せ合ってましたよね!

原田:だからこそ、出てくるコピーも上手だし、言葉まわしも本当にすごいなと思うんですけど、その前段階の、仕組みや視点の発見がすごいというか。今回星くんが受賞した「聞こえてきた声」※1も、初めて見たのはTVCMのオンエアでした。感激して、誰が作ってるんだろう!?と思って調べたら星くんで、すぐに連絡したんです。
※1 星がTCC新人賞を受賞した、ACジャパン「聞こえてきた声」

原田:てにをはや言い回しが良いというよりは、15秒の枠の中で、漫画の表現を使って、ミスリードをして、最後にひっくり返して、見る人たちに発見をつくる視点が上手だなと思いました。言葉だけではなく体験や空間まで考えたうえで発見につなげるのが上手だなと。

―当たっていますか?

:そうですね(笑)。
言葉として美しいかというよりは、世の中がAだと思っていることに対して、「実はBなんじゃないの?」というほうがハッとさせられるというか。視点を変えるような広告に憧れを感じるから、自分がそういう能力を持っているかは分からないけれど、少なくとも興味はあるなと思います。

原田さんのすごいところは色々とありますが、「人と似たものを作りたくない!」っていう思いが強いと思う。

原田:(笑)

:すごく大事な能力だと思うんです。経験を積み重ねていくと、似たもので安心したがる気持ちが増えると思うんです。でもそれに抗っているのか「似たものを作らないぞ」という思いが強い人だなと。だから今回のラジオCM※2も、異質ですもんね。

※2 原田がTCC最高新人賞を受賞した、タマノイ酢 すしのこ「お前、家でポテチ食うてんなぁ!」
「タマノイ酢」と「パラレル」の作品で受賞

:「HOME(家)」と駅の「ホーム」みたいな掛け言葉も面白いけれど、言葉の一つひとつを細かく聞いていなかったとしても、いわゆる“ラジオCMってこういうもの”というものとは似ていない。喋り方みたいな演出の部分も得意ですしね。

原田:以前本人にも伝えたことがあるけれど、僕は、星くんが作るような広告に憧れていたし、今でも作りたいと思っています。
「広告」は、世の中になくてもよいものだけど、広告があることで、価値観や固定観念を一発でひっくり返す力がある。最近はいろいろな人が手軽に映像を作れる環境になってきた中で、その人たちとは何が違うのかを考えてみると、僕らのような広告クリエイティブを仕事にしている人たちには、15秒の短い尺や一枚絵といった一定の範囲内で考えて、一瞬で価値観をひっくり返す技術が備わっているはずで、星くんはそれがすごい。

僕が作るものは、どちらかというとフィクションや創作に近いから、設定とかセリフを工夫したりして“変なもの”を作って目立とうとするけど、星くんが作るものは、“変なもの”ではないけど目立つ。ど真ん中で目立つ力というか、そこがやっぱりすごい。僕も本当はそんな広告を作りたいけど、自分がキャリアを十数年積み重ねてきて、「こういうジャンルが向いているんだろうな」と考えて作ったのがあのラジオCMですかね。

―営業時代のお話に戻ると、当時の経験が今に繋がっていることはありますか?

:当時、九州支社で通販会社さんを担当していて、広告に対する世の中のリアクションや広告の力を強く感じる経験をしました。その時期に、自分でラジオCMの原稿を書くという経験もしました。言い方を少し変えるだけで、(注文の)電話の鳴り方が変わる。伝える言葉を変えると、世の中の反応が変わる・人が動くというのを体感したことが、クリエイティブへの興味がさらに強くなった原体験でした。

原田:僕も、営業の経験が役立っています。営業として広告ビジネスの全体像を学び、ブランドが世の中を動かすダイナミズムを体感したり、著名なクリエイターと膝を突き合わせて議論する場にも参加したり。叱られることもあったけど、大事にするべきことや、どんなことをすると良いものができるか、何を粘り強く考えるべきか、どこからが勝負か、といった考え方のベースを営業時代に勉強させてもらえました。
その後にクリエイティブとして、師匠のクリエイターの下に付いて、何をどこまでこだわらなきゃいけないのかをとことん教えてもらいました。今はリモート環境もあるから距離があるかもしれないけど、(当時は)よく分からないけどずっとそばにいて、何を教えてもらうでもないけど近くで見て、同じ空気を吸うみたいな感じで教えてくれましたよね。

―クリエイターは特に、師弟のような関係性が深い印象です。

原田:そうですね。でも当時は、営業でも師弟関係が強かった。あの人のスタイルを真似た営業スタイルになっていく、みたいな。僕はそういう師弟関係の匂いのようなものが好きで、良い時代に良い営業チーム、良いクリエイティブチームに行かせてもらったなと感じています。同じような経験を、僕は後輩にはぜんぜん還元できていないけど(笑)星くんは自分の技術を還元していっていますよね。

―「星ルーム」が発足したのは2023年でしたね。メンバーの皆さんにご自身の経験を伝えることも多いですか?

:そんなにはないです。ただ、自分が一緒に仕事をしていて、無視できないことがあったときには言うくらいですね。
―それは、「もっと調べよう」とか?
:例えばそういうこととか。

原田:そういえば、星くんが転局してきたばかりのとき、僕が案を100とか200とか、とにかくたくさん数を出さなきゃいけなくて、星くんにバーッて見てもらったら、「これ、てにをは違いですよ」って言われて(笑)

:そんなこと言いました!?(笑)

原田:それを言われて、「確かにそうだなあ!」と思って。僕の中では、てにをは違いじゃない案のつもりだったけれど、考えが浅くて、視点としては同じものだったなと。
やっぱり星くんは、俯瞰で見る力がすごいんですよね。 僕は、深く入り込んで、入り込んだ世界を面白くしようとするんですけど、星くんの場合は考える前にその前提や課題から検証する、みたいな。

:たしかに。どちらかというとそういうタイプかもしれないですね。でもやっぱり、経験を重ねると、語尾や言葉づかいの違いで、伝わり方が全く違うなと思います。

―インタビュー時間も後半になってきました。クリエイターまたはビジネスパーソンとして、大事にしていることはありますか?

原田:自分のことをクリエイターだと思わないこと、ですかね。あくまで僕はですが、「作っている」ではなく「見つけている」という感覚が近いです。みんなが見過ごしていることにどうスポットライトを当てて発見にするか、ということを考えないと、共感とか感動は生まれにくいんだろうなと思っています。
「クリエイター」然としてしまいがちだけど、誰よりも営業の姿勢は必要だし、誰よりもマーケティング視点で考えないといけないし、誰よりも俯瞰した全体像を分かっていないといけないと思うし、何というか、「人としてふつうである」ように、普通の感覚を丁寧に理解することを大事にしてるかな。
昔は、服装や食事をする場所、会う人も「クリエイターっぽいことをしなきゃ」と思っていた時期もあったけど、それよりも、友達や親や家族を大事にして、日本の文化を大事にして、日々感じる心の機微に気づいて向き合うことを、粗末にせずに大事にしているかもしれないですね。

―それが結果的に、アウトプットにつながっていくということ?

原田:そうだと思います。僕が作ったものがそうは見えないと思うけど、“変なもの”を作るときの距離感みたいものが、昔より少しは分かってきた気がしています。
昔、上司から「お前が作るものは優しくない」と言われたことがあって。その商品やサービスは、ある人の悩みを解決するものなのに、表現を面白くしたいがあまり、悩んでいる人を傷つけてしまう可能性がある強い表現にしていたりして。

さっき星くんも言っていたけど、例えば語尾一つでも伝わり方は大きく変わってくるんですよね。かつては面白さだけを優先してしまっていた僕が「優しさ」みたいなことに気付けるようになってきたのは、身の回りにある当たり前のことを、当たり前に大事にできるようになってきたからかもしれません。それを、これからも大事にしていこうと思っています。

―星さんが大事にしていることは何でしょうか?

:僕はそんなにないんですけど、強いて言うならば、「嘘をつかない」ことですかね。それは、生活でもそうだし、企画を考えるときも。
営業だった頃、クライアントさんに「星さんは嘘つかなさそうですね」って言われたことがあって、「嘘をつかない感じが良いところですよね」とさらっと言われたのが心に残っていて。
日々の生活でいえば、嘘をつくのは格好悪い。企画上のウソは、バレるし後から見ると恥ずかしい。例えば、企画の中に都合よく「こんな人がいたらいいな」という人を生み出してしまって、後から見てみると「こんな人いないなあ」と。広告表現は、ウソといえばウソだけれど、自分の暮らしの延長線上で、無くはない世界や設定だなと思ってもらえると共感が生まれると思うので。
だから、自分の生活の外からストーリーを作ることは不得意なんですよ。自分で経験したことや、考えたことからじゃないと作れない。だから「嘘をつかない」より「嘘をつけない」のほうが近いかもしれないです。

―今後の目標は?

:うーん、……代々木上原に住みたい(笑)閑静な住宅街で、素敵な飲食店もあって……言い換えると、学生時代の自分が見て、良いなと思ってもらえるような生活や仕事をしたいし、その頃の自分にダサいと思われるようなものは作りたくないなと思いますね。

原田:僕は、できるだけ長くこの仕事をしていたい。僕らの先輩って、60歳とか70歳になっても自分で会社を作ったりして仕事をしているじゃないですか。それがすごいなぁと思うんですよね。広告の仕事が好きだから、ずっと続けたい。好きな仕事をやらせてもらえているのは、すごく幸せなことだと思うので、一日でも長く続けたいなと思います。

―広告関連のアワードについて

原田:若いときには「広告賞がほしい!」と思っていたけど、意識しなくなったら受賞できるようになってきた気がします。広告賞の良いところは、ヨコのつながりができることかなぁと。広告業界の仲間として、いま何を考えていて、何に悩んでいて、どんな課題と向き合っているのか。これからは、同業同士ヨコのつながりを強くすることが、広告業界全体を強くするきっかけになるかもしれない、と感じています。

: TCC賞の授賞式に呼んだ母が、「広告っていいなあ」と言っていたんですよ。「今まで広告のことはボーッと見るだけだったけれど、見る目が変わった」と言っていました。
その時に、表現だとか、クライアントさんのための課題解決のためのもの、だけではなくて、公共物として、世の中の人に良いなと思ってもらう、何かを心に残す使命も、作る側にはあるんじゃないかなと思いました。そういう意味では、表現を評価する広告賞は、その役割を担っているかもしれないなと思います。

原田:たしかに。見たくない人にも見せるのが広告で、(他の)コンテンツにはない特徴の一つで。見たい気持ちがない人の時間を乱暴に奪うものである以上、主張だけではなくて、公共物としてそれなりに良いものにしないと失礼だと思う。なので確かに星くんの言う通り、広告賞がバランスを保っているのかもしれないですね。

:自分で言っておきながらですが、それはもしかすると、広告賞うんぬんというよりは、そもそも広告表現としての最低条件かもしれないですね。難しいことではあるけれど。

 

今後も、原田や星を始めとする、ADK MSおよびADKグループのクリエイターの活躍にご期待ください。

原田 堅介
CHERRY
クリエイティブディレクター/CMプランナー
岡山県出身。2007年ADK入社。4年間営業職を経験した後、クリエイティブに転局。2018年CHERRY設立メンバーに。人見知りでお笑い好きの芸人マニア。主な受賞歴にTCC最高新人賞、総務大臣賞/ACCグランプリ、ACCクラフト賞(コピー)など。

星 聡宏
ADKマーケティング・ソリューションズ
エクスペリエンス・クリエイティブ本部 第1EXクリエイティブ局 クリエイティブディレクター/コピーライター
主な仕事に、ACジャパン「聞こえてきた声」 藤子プロ「ドラえもんにはナイショだよ。」日本動物愛護協会「その一目惚れ、迷惑です。」 三菱電機「しあわせをシェアしよう。」 ハッピーターン「大人がハマるパウダー。」

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