コラム
クリエイティブ・ディレクター/CMプランナー 東畑 幸多さんインタビュー
あなたとちいさな話がしたいんです 略して…ちい話!
2025.04.04
大事なことって、ちいさなことに詰まっている(気がする)。広告されない ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』編集部がゲストをお招きし、その方が大事にしているちいさな物事について伺っていこう!そして、『ちい告』の肥やしにしていこう!というインタビュー企画です。
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今回のゲストはこの方! |
編集部:『ちい告』編集部一同、東畑さんのお仕事に憧れております。以前『ちい告』をお渡しさせていただいたご縁もあって、今回思い切ってインタビューの依頼をさせていただきました。引き受けていただき、本当に嬉しく思います。早速ですが、東畑さんのお仕事について質問させてください。
東畑さんが手掛けられた広告、例えば九州新幹線全線開業のCMは、OAから10年以上経っているのにも関わらず、今でも定期的にSNSで話題になっていたり、リクルートの様々な広告(リクルートポイント『すべての人生は、すばらしい。』/リクナビ『山田悠子の就職活動』など)は名作CMとしてまとめられていたりと、長く愛される広告ばかりです。時代を超える普遍性を感じるのですが、広告をつくる上で大切にされていることはなんですか?
東畑さん:ちょっと難しい質問ですが、“心根”が大事だと思っています。この広告で何をしたいのか、どんな気持ちになってほしいのか、ゴールイメージの設定をどこに持っていくか、最初のマインドセットの部分。
例えば九州新幹線の場合、企画の最初の段階で「九州の皆さんにとって、一生モノの思い出をつくろう」と言ったときと、「開業告知をつくろう」と言ったときでは、打ち合わせに持ってくるアイデアやリファレンスが変わってくると思うんです。
サントリー天然水の仕事では、「命とブランドを繋ぎたい」というゴールを持っています。100年先を約束するブランドとして、「君と好きな人が百年続きますように」と歌う一青窈さんの『ハナミズキ』という楽曲がふさわしいなと思ったのですが、この楽曲をそのまま使うのではなく、合唱にしようと考えました。そして、柄本佑さんが父を演じる映像に、安藤サクラさんのナレーションが当たるといいなと考えたのですが、それもこれも「命とブランドを繋ぐ」という心根があったから生まれたディレクションです。 ナレーションのラストに「大自然を味方にして生きて行くんだよ」という言葉を置いているのですが、それまでナレーターとして語っていた安藤さんが、最後は一人の母として呼びかけるという流れにしています。これも単に水が飲みたくなる「止渇感を訴求する」というゴール設定では、なかなか辿り着けない表現だと思います。
リクルートポイントの広告は、もともと競合プレゼンでした。もし企画の初期段階で「リクルートポイントが始まることを告知しなきゃ」という目的で、そこをゴールにしていたら、ああいう企画にはならなかったと思います。リクルートのサービスは、リクナビだったり、ゼクシィだったり、SUUMOだったり、人生のあらゆる節目に関わるもので、人生の全部に寄り添っていくサービスになっていく。そのためにポイントを統合する。そんな捉え方をしたから、「すべての人生は、すばらしい。」というCMが出来上がりました。
九州新幹線全線開業「祝!九州」
編集部:最近の広告業界では、短期的な結果を求められることも多く、数値化できないものを追いかけづらくなっている気もします。
東畑さん:今の時代、クライアントさんが広告に期待することが、課題解決や効率化に寄ってきている感じがありますが、それでも「企業やブランドを好きになってもらう」とか「ファンへの感謝を伝える」とか、気持ちを中心にした広告を求められる局面はなくならないはずです。課題をどう解決するかも大切な広告の役割ですが、ブランドとファンの絆を作ることもまた広告の重要な機能の1つです。短期の成果だけでなく、中長期を見据えた視点で、広告に何を期待するのか。クライアントさんと、そこから合意していく必要があると思います。
記憶や眼差しが、感情を動かす。
編集部:東畑さんの企画打ち合わせでは「“記憶”を持ち寄る」というお話を伺ったことがあります。なぜ“記憶”なのでしょうか?
東畑さん:頭だけでなく、体や心で考えたことのほうが、人の感情に触れるものになるのではないかと思っていて。だから、いきなり企画を持ち寄るのではなく、「こういうものを見て、自分はすごく揺さぶられた」とか「この問題が、すごく気になった」とか、最近感動したことや心が動いたことなど、個人の感動の記憶を共有し合うようにしています。思い出すことで、企画にしていくみたいな。そのほうが、「この人は、こういうことが好きなんだ」とか「こういうことに詳しいんだ」とか、仲間の人となりも理解できたりします。
自分の心が動いた瞬間をリファレンスにするという話なのですが、先日あるお仕事で、ミナ ペルホネンの『wind flower』という作品を打ち合わせに持ち寄りました。花は、一般的に「可憐さ」や「優しさ」を象徴するモチーフになりがちなのですが、この作品の花は、逆風に立ち向かうように、強い風になびいている。可憐というイメージやトレンドへのアンチテーゼ的に「強さ」が表現されているそうなのですが。「そんなCMを作りたいんです」と監督に企画だけでなく、イメージを伝えたりしています。
編集部:東畑さんが手掛けられたCMに登場するキャストの方や人物は、いつも魅力的だなと思うのですが、広告で「人」を表現する際に意識されていることはありますか?
東畑さん:CMプランナーの中には、愛すべきキャラクターを作ることが上手いプランナーの人が何人もいます。そういう人に比べると僕は、逆に得意なほうではないかもしれません。
ただ、“眼差し”は大事にしたいと思っています。キャラクターというよりも、メッセージに近い話かもしれません。広告を見た人が、あったかい気持ちになってほしい。人間は本来、優しさを伝播するものなのに、今の世の中は不機嫌が増えていると感じていて。SNSなんかを見ると、不寛容なことのほうが多いですし、そっちのほうがみんなも反応しやすい。それでもめげずに、眼差しが「やさしいもの」「あったかいもの」を広告でやっていきたいですし、僕自身も、優しくありたいという風には常々思っています。
自分の体と繋がる仕事を。
編集部:企画をする上で、自分に課しているルールがあれば、ぜひ教えてください。
東畑さん:“記憶”や“眼差し”の話とも近いのですが、「自分の体と繋がる仕事をする」ということでしょうか。心のどこかで「意味がない」とか「くだらない」とか思ってしまっていることに時間を費やしたくはないですし、自分が心からいいことだと信じられる、ささやかでもチャレンジしたいと思える仕事がしたいです。自分と仕事を、切り離さない。
自分をいろんなところに連れ出すことも大切だと思っています。ありがたいことに広告の仕事は、いろんな業種のクライアントさんを担当することができるので、仕事を通して自動的に、自分の引き出しが広がっていく感覚があります。
編集部:東畑さんが、心をくすぐられる“細かいツボ”があれば、教えてください。
東畑さん:最近感動したもので言うと、『No No Girls』、『timelesz project』、『病院ラジオ』、『ドキュメント72時間』です。
編集部:どれも、ドキュメンタリー要素があるものですね?
東畑さん:全然細かいツボではないかもしれませんが、“積み重ねた時間”が好きなんだと思います。秋山晶さんのコピー『時は流れない。それは積み重なる。』ではないですけど、過程やプロセスに心が動くんだなぁと。タイプロは、メンバー発表の直前から気になり始めて、一気見しました。プロセスを知らずに見る『RUN』と、プロセスを知ってから見る『RUN』では音楽に対する感動が全然違う。まさか、男性アイドルの曲で泣くとは思いませんでした。
編集部:「まだ自分しか知らないかも…!」という、密かに注目しているコンテンツがあれば教えてください。
東畑さん:僕は人から勧められたものを見ることが多いので、なかなか思いつかなったのですが…あまり人に知られていないものを挙げると「アニマルフロー」です。動物の動きを真似する運動なのですが、最近始めたパーソナルトレーニングに取り入れています。普通の筋トレが、鍛えたい部位に特化して筋肉を鍛えるのに対して、アニマルフローは、動作の中で筋力や柔軟性などを満遍なく鍛える全身運動。
少し無理やりではありますが、自分の仕事のスタイルにも通じるところがあると思っていて。課題を自分の得意領域に寄せたり、鍛えた筋力を無理に使おうとするのではなく、柔軟でいたい。素直に反応したいと思っています。
編集部:広告という仕事に、希望を感じるお話をたくさんしていただき、とても励みになりました。本日は、お忙しい中本当にありがとうございました!
★第1回「ちい話」市川晴華さん(CHOCOLATE Inc.)インタビューはこちら: 前篇 / 後篇
★第2回「ちい話」松本壮史さんインタビューはこちら
★第3回「ちい話」『二坪喫茶アベコーヒー』店主・阿部まりこさんインタビューはこちら
『ちい告』とは。
広告されない、ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』。時が経てば忘れてしまう「クスッ。」や「キュン!」を手のひらサイズにギュギュッとつめこんだフリーペーパーです。(ADKグループから不定期発行。次号も準備中です!)
【共同編集長】片岡良子(CHERRY)・川瀬真由(ADKマーケティング・ソリューションズ)
【デザイン】大橋謙譲 (CHERRY)
イラスト:コマツタスク