ニュースリリース
【フロントラインレポート】若者マーケティング研究のスペシャリストに聞く、 「ワカスタ」からひもとく現代の若者を攻略する体験価値とは
2023.04.21
藤本耕平
ADKマーケティング・ソリューションズ
EXデザインセンター バーティカルCRプランニンググループ
社会が急激に変化する時代において、常にその変化に順応し新しい未来を創り出す若者。
実生活での社交活動が制限されたコロナ禍では、ビデオ通話やオンラインゲームによるコミュニケーションを生活に取り入れ、前向きに変化を享受してきました。
昨今、企業のマーケティング活動において若者の消費行動や価値観を知ることは重要性を増す一方、現代の若者は情報処理速度の向上等でますます捉えにくくなっています。
今回のフロントラインレポートは、「ワカスタ」を発足し若者とともに若者の視点でソリューションを開発するADKマーケティング・ソリューションズ EXデザインセンターの藤本耕平に、「ワカスタ」運営から見えてきた若者攻略の体験価値創造について話を聞きました。
藤本耕平(ふじもとこうへい)
1980年生まれ。一橋大学卒業。
2002年、広告会社アサツー ディ・ケイ(現 ADKマーケティング・ソリューションズ)に入社。17年間マーケティング業務に従事。
2010年から若者プロジェクトリーダー。情報感度の高い学生メンバーで構成する若者研究部隊「ワカスタ」を創設。
2019年、Twitterに転職。ブランドストラテジストとしてSNSの新しい可能性を追求し、生活者を巻き込んだコミュニケーション戦略を開発。
2021年、ADKに戻り、SNSを活用したコミュニケーション戦略立案に取り組む。
若者世代のインサイトに詳しく、執筆活動や講演活動も行う。
東北芸術工科大学非常勤講師 淑徳大学人文学部表現学科非常勤講師
著書:「つくし世代」(光文社新書)、「つくす若者がつくる新しい社会」(ベスト新書)
受賞歴:カンヌ国際広告祭、スパイクスアジアほか。
「ワカスタ」発展の理由は、若者たちの“やりたい”を引き出しながらカタチにしていくこと
-「ワカスタ」は、2012年の立ち上げから昨年10周年を迎えましたね、振り返っていかがですか。
藤本:立ち上げ時は、様々な人の力を借りてとても優秀な学生たちと「ワカスタ」の原型を作ることができました。当初から現在のコンセプトである“若者のことは、若者が一番知っている”の通り、若者の視点で自分たちのことを分析したり、若者攻略に悩む企業の課題を解決したりしてきました。基本的な活動スタイルである月2回のワークショップ形式は昔から変わりません。また、プロジェクトとして軌道に乗せるまでの約1年間における試行錯誤の中、学生たちにすべての権限を与えて自主的に取り組む組織作りに変更したことで彼らのモチベーションが大きく上がったように思います。
今でも「やらされている」ではなく「やりたい」という気持ちをどう引き出すかを考えながら運営しています。これまでの10年間「ワカスタ」を通して多くの学生たちとの出会いがありました。いまは、各業界の第一線で活躍している「ワカスタ」卒業生たちが本当に誇らしく、彼らとの近況報告会をするのが僕にとって楽しい時間となっています。
-これまでに、延べ4,000人の大学生が「ワカスタ」に参加されたそうですね。多くの若者に支持され続ける理由は何でしょうか。
藤本:月2回の定例ワークショップに参加する基本メンバーは毎年40名程度、以前は大阪や九州でもワカスタ支部を運営していたので、彼らも合わせるとこれまでに約500名の学生に参加してもらってきました。また、定例活動の他に外部の学生を巻き込んだ企画も実施しているのですがその象徴となるイベントが、若者と一緒に企業の課題を解決するマーケティングアイデアコンテスト「ワカスタビジコン」です。
この、全国の大学生のために開催され学生たちが情熱を注ぐビジネスコンテストは、2014年のスタート以降これまでに延べ約3,500名に参加してもらいました。
こんなにも多くの学生に参加してもらえた理由は、学生たち自身が“自分たちにとって居心地の良い組織”にしようと頑張ってくれているからだと思います。そのために僕は、彼らの要望をできるだけ叶えられるよう注力しており、例えば「ワカスタビジコン」では学生たちの要望に対して以下のように応えてきました。
■要望①:架空のお題ではなく本物の企業課題を解決したい→当社営業の方々の力を借りて、実際に若者攻略に悩む企業を見つけ出し、企業の方から直接若者に課題を提示いただく。
■要望②:ADK社員からスキルを学びたい→毎年20名のクリエイティブやマーケティング等のプランナーの方々に協力いただき、学生へのフィードバックを実施する。
■要望③:同じ志を持った他チームの学生と交流を持ちたい→イベントの随所で学生たちが仲良くなれる仕掛けを用意する。
このように、学生たちの意思を尊重し彼らの意向や考えを形にするサポートをしながら「ワカスタ」は発展してきました。
また、2021年からスタートしたピープルマネジメント本部との共同による“ワカスタ新卒採用”では、毎年ワカスタメンバーからADKに入社もしてくれています。ひとりひとりの社員を尊重する風土をもつADKは「ワカスタ」に共感するような主体性を求める若者と相性が良いと感じています。
情報量の増加と個人の強みを向上させる若者たち。求められるのは本音で向き合うWin-Winな関係づくり
-「ワカスタ」という若者を定点観測する場から見て、彼らの考えかたや価値観にはどのような変化を感じていますか。また、その変化に伴う課題はあるのでしょうか。
藤本:若者の価値観は、僕の言葉でいう「自分ものさし」(ものごとの判断基準が世の中や周りの人ではなく”自分”)という方向性はここ10年間変わらないのですが、自分で行動するうえでの判断材料や解決方法が大きく変わってきたように思います。
その変化は「①情報処理速度の向上」と「②個人がもつ強みの向上」によるものです。
①の、自分に必要でない情報をすぐに見抜き切り捨て必要な情報を大量に吸収する。また、好きな情報でなかったとしてもこれを押さえていないといけないと思う情報は楽に簡単に収集できる動画コンテンツを駆使してキャッチアップしています。以前よりも一人当たりがもつ情報量が増えた気がします。
②は、自分が好きなものを突き詰める環境が整っているので、好きなものへのこだわりや行動力は確実にアップしています。動画編集の得意な若者は驚くようなクオリティで制作してくれますし、特定の分野に長けている若者はその情報を1時間くらいは平気で語ってくれます。友人ネットワークの広い若者も多く、自分が得意でない分野については「その道のプロ(友人)」に頼ってものごとを解決しています。僕もワカスタメンバーに「これに詳しい人いない?」と紹介してもらって何度助けられたことか。
このような、若者の「処理速度の向上に伴う情報量の増大」と「個々人の強みの向上」という変化によって、広告を作る側のスタンスも変わらなければならないと痛感しています。具体的には、広告を作る側が“仕掛ける”(若者を巻き込む・捉える)というスタンスでは通用しないということ。若者のほうがその分野の情報を持っているかもしれないし、こちら側の意図も推測できる。企業と若者は対等な立場もしくは若者のほうがものごとを知っている前提でアプローチをする必要があると思っています。
-ところで、藤本さんは「ワカスタ」の知見を活かして多くのクライアント業務に向き合っていらっしゃいますが、捉えるのが難しいと言われる現代の若者を消費に向かわせるポイントは何ですか。
藤本:情報量も個人の強みも向上している若者たちを味方につけるには、彼らが能動的に行動するスイッチを押してあげることが重要だと考えています。言い換えると、どう若者たちに喜んでもらうことができるのかという視点です。彼らを戦略的に攻略するのではなく本音で対等な立場でアプローチする。いわばフラットにWin-Winの関係をどう作れるか。「僕ら企業はこうしたら若者たちの生活をハッピーにできて、僕らの存在意義も上がると思うのですがどうですか?」と。例えば、推し活文脈であれば、彼らの推しているタレントをどう起用すれば喜んでもらえるのか、もしくは彼らが喜んで一緒にキャンペーンを盛り上げたいと思うのか、彼らをハッピーにさせるスタンスでコミュニケーションを構築する必要があると考えています。
若者のリアルな体験こそが、若者を動かす!
-これまで、若者獲得を目的に取り組まれてきた体験価値創造について教えていただけますか。
藤本:クライアントは松山市、「若者を松山へ移住・定住させるための魅力発信」が目的の案件で、2018年の競合コンペで採用されてから4年間実施している若者ターゲットのプロジェクトを紹介します。これは若者に対して広告主側が一方的にアプローチするというものではなく、“松山の若者たちが松山の魅力を若者視点で発信していく”という共創型のプロジェクトです。
このプロジェクトには地元の学生を中心に10~20代の若者が参加しており、月1回の全体ワークショップとチームに分かれての分科会で活動しています(このプロジェクトのメンバーを「マツワカ:松山の若者」と呼んでいます) 。活動内容としては、松山市の企業の課題を若者視点で解決する“企業コンサル”や、松山市で自分らしく働く先輩をインタビューする“先輩インタビュー”そして、松山の人気スポットを紹介するサイト“TAGLLY”等があり、中でも企業コンサルでは、毎年参加いただいている企業の協力のおかげでオリジナリティのあるユニークな商品開発を実現しています。
今年は地元で人気の老舗和菓子店「薄墨羊羹」から、“若者が食べたくなるあんこスイーツを開発したい!”という課題が提示され、マツワカメンバーが導き出したコンセプトが「松山の素敵な場所で大切な人と一緒に食べたくなるあんこスイーツ」でした。松山には風光明媚な場所が多く、若者ひとりひとりに思い出の場所があるという地元ならではのあるあるをもとに開発されました。気軽に外で食べられるようストローで飲めるという新感覚の寒天スイーツは、二つのボトルを並べるとお互いの差していた傘が相合傘になるという仕掛けにもこだわり、お披露目イベント当日には薄墨羊羹本店で売り切れになるという盛況ぶりでした。
僕は、このプロジェクトを通していつも松山の若者たちの地元を愛するパワーに刺激を受けています。広告主側が発する言葉ではなく松山を愛する彼らが発する言葉だからこそ説得力があり、人の心を動かすのだと思います。若者たちの地元での日常体験を“松山独自の価値”として捉え、彼らの言葉で他の若者に発信するという「若者体験発、若者を動かす体験価値創造」という構造は他の案件にも活用していきたいと思っています。
-最後に、ADKがクライアント課題を統合的に解決するマーケティング・パートナーを目指す中、「ワカスタ」は今後、どのような進化を遂げていきたいとお考えですか。
藤本:「ワカスタ」をアウトプットまで手掛けられる集団に進化させたいというのが目下の目標です。これまでは、若者視点でのコンサルティングやキャンペーンアイデアを開発するにとどまっていましたが、これからはより具体的な商品開発やイベント開発などアウトプットの部分まで対応領域を拡大していきたいと考えています。
そのためには、アウトプットができるパートナーとの協働が必要なのですが、その第一弾として主婦と生活社の「JUNON」との提携を実施します。
「ワカスタ」が若者のインサイトを踏まえて商品アイデア・キャンペーンアイデアを開発し、それをもとに「JUNON」が誌面や動画コンテンツを開発する。お互いの強みを活かし合いながら若者の間で話題になるアウトプットを実現したいと思っています。
更には、これまでのようなコンサルティングやアイデア開発を気軽にできるメニュ―をパッケージ化し、より多くの企業に活用いただける商材も検討していきます。
これからも、ターゲットである若者たちともに商品を開発しファンを育成する統合的なソリューションを「ワカスタ」で実行してまいります!
■若者マーケッター集団「ADK ワカスタ」
若者自身がマーケッターとなり、自分のこと周りのことを踏まえて、いまどきの若者インサイトや攻略策のヒントを導き出していく若者マーケッター集団。東京近郊に在住の情報感度の高い大学生で構成される。基本活動は月2回のワークショップ@ADK会議室で、企業のコンサルティング活動やキャンペーン開発、また学生向けのイベント運営などを行っている。2012年~現在まで10年以上活動を続けている。
「ワカスタ」卒業生を送る会
【本件に関するお問い合わせ】
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
EXデザインセンター バーティカルCRプランニンググループ 藤本 e-mail:kohei.fujimoto@adk.jp
ビジネス戦略局PRグループ 齋藤/内山 e-mail:mspr@adk.jp
株式会社ADKホールディングス
グループ広報局 平尾 e-mail:adkpr@adk.jp